災害が起こった場合の避難の仕方・過ごし方

飼い主とペットの避難

災害と感染症地震や洪水などの災害が起こって避難する時には、人は何も持たずに避難しても避難所で受け入れてもらえますが、ペットの場合は避難先に必要なものを持っていかないと困ってしまいます。
ペットを連れてどうやって避難したらよいか、どのような準備が必要か考えてみましょう。
災害が起こり避難が必要な場合は、あらかじめ準備しておいた避難バッグを持って速やかに避難をしましょう。避難所(杉並区では、区立の小中学校の震災救援所のことをいいます)は杉並区の防災マップで調べておきましょう。同じ避難所内に人とは別に動物避難所が設置されるので、飼い主はペットを連れて避難できます(これを同行避難といいます)。避難中の世話は飼い主がするのがルールです。

怪我や病気のペットたちの避難

飼い主とペットの避難災害の際に怪我をしたペットや病気のペットのためには、動物避難所とは別に区内5 カ所(東田中、井草中、高二小、杉森中、和泉小)の避難所に負傷動物救護所が設置されます。避難中に怪我をしたり、避難所で具合が悪くなった時は負傷動物救護所で手当てをしてあげましょう。負傷動物救護所には獣医師がいますから、ペットの様子がおかしい時は相談に乗ってもらえます。
避難所ではペットたちが避難している人たちの心を和ませてくれるかもしれませんが、普段動物を飼育していない人や動物が苦手な人もいますから、ネコはキャリーケースに入れたり、イヌはリードにつなぐなどして、他の人の迷惑にならないようにしましょう。リードやケージに慣れさせておくなど、日頃からきちんとしつけをしておきましょう。動物避難所ではたくさんの動物が集まってきますから、ワクチン接種やノミ・ダニの予防も大切になります。中には怖がりなペットもいますから、他の人のペットに触る時はむやみに触らずに飼い主に断ってからにしましょう。

ペットの避難準備

ペットの避難準備避難所で必要になるリードやケージなどは飼い主が準備しなければなりません。ペットの避難準備の場合は食べ物や飲み物だけではなく、避難所で必要になる物を準備しておくことが大切です。
どのような物が避難所で必要になるのか確認しておきましょう。

準備するもの:
フード・水(最低でも5日分)、食器、ケージ、リード、敷物やタオル、ビニール袋、迷子札、薬

避難中に与えるフード、水、食器は必ず必要になります。動物避難所ではリードでつないだりケージに収容したりする必要がありますから、ケージとリードも必ず準備しておきましょう。敷物やトイレ用のシーツもあれば、ペットたちもくつろぐことができますし、汚れ物を入れるビニール袋なども必要になります。
避難所から逃げてしまった時のために、迷子札を付けたり「マイクロチップ」といわれる小さな器具を体に埋め込んだりしましょう。また、イヌの場合は飼いイヌの登録の鑑札と注射済票をつけましょう。

持病があり治療中のペットの避難準備

避難中でも治療の継続が必要なペットや特殊なフードしか食べられないペットは、あらかじめかかりつけの先生に常備薬や処方食※を余分に処方しておいてもらいましょう。最低5日分程度は準備しておくと良いでしょう。また、病気や飲んでいる薬の名称がすぐに分かるように、病名や薬剤名を記載したメモも準備しておくと、薬を無くした時や足りなくなったときに役に立ちます。
※処方食:獣医師の指導に基づいて与える特別な食餌

災害で避難生活をしている際には、動物も普段と違う生活で病気にかかりやすく、また感染もしやすくなります。避難所で人と動物が別々の場所で生活していても、動物から人にうつる病気もあるので感染症について理解する必要があります。

災害と病気

大きな地震や洪水などが起きると動物たちに何が起こるのでしょう。大きな揺れや物が崩れる音、雷が鳴り響くだけでも動物にとって大きなストレスです。一度経験すると少しの揺れや物音がするだけでおびえるようになるかもしれません。杉並区でも東日本大震災の後にちょっとしたことでもおびえるようになったり、体調をくずしたりした動物が多くいました。
水害が起こると川の水や下水にいる病原体※も流れ出てきます。
風や生きもの・乗り物などによって洪水が起きていない地域にもその病原体は広がっていきます。地震などではものが倒れたり壊れたりしてけがをする機会も増えます。
災害が起こった後は、いろいろな感染症にかかる機会が増えます。例えば避難生活では動物も人も密集して暮らさなければなりませんし、慣れない環境での生活が続き大きなストレスを感じるかもしれません。体力が衰えたり衛生環境も悪化したりします。
また、医薬品が不足したり診療施設が被害を受けて適切な対応が取れないかもしれません。
このような時にはどのような感染症に注意しなければならないでしょうか。動物を病気にさせないように守るのも私たちの務めです。
※病原体:病気を引き起こす細菌やウイルスなど。病原体によって起こる病気のことを感染症という。

感染症と予防法

感染症は人から人にあるいは動物から動物にうつるもののほかに人と動物の間でうつる感染症もあります。このような病気を人と動物の共通感染症といいます。災害避難時にはたくさんの人と動物が接する機会が増え、より感染の危険が高まります。
感染症のうち災害時に注意しなければならない主なものをいくつか紹介します。感染経路や症状は一覧表を見てください。
※共通感染症は赤字で表記します。

狂犬病
感染症と予防法共通感染症の中でもっともこわい病気の一つで、発症するとほぼ100%死にいたります。日本でも過去流行しましたが狂犬病予防法などの法令によりイヌの登録と予防注射が義務化され、50年以上動物の狂犬病の発生はありません。しかし、今も世界中で毎年5万人以上の人々が狂犬病でなくなっています。もし日本に入ってきても流行しないように、イヌには狂犬病予防注射を毎年することが法令で決まっています。

レプトスピラ症
感染したネズミの尿で汚染された水や土が原因となる共通感染症です。近年都市部でもネズミが増えていますから、水害のあとの流行が心配されます。人の症状は頭痛や発熱ですが、肝臓や腎臓などの障害を起こすこともあります。イヌには予防注射がありますから、毎年接種しましょう。

パスツレラ症・猫ひっかき病
感染症と予防法動物にかまれたり引っかかれたりして感染する病気です。しかし、動物はヒトとちがい感染していても無症状のことが多いです。
猫ひっかき病の病原体はノミが運びますから、定期的な駆虫で感染を防げます。災害時や避難直後など急な変化により動物は興奮したり恐怖を感じたりして攻撃的になりやすいので、注意が必要です。
※駆虫:寄生虫や害虫を駆除すること。

サルモネラ症・カンピロバクター症
いずれの病気も動物は無症状なことが多く、糞が口に入ることにより感染します。ほかにも同じような経路で感染する病気がいくつもあります。ケージの掃除やごみの取りあつかいに特に注意しましょう。

イヌやネコのカゼ
感染症と予防法人のカゼと同じように簡単に近くにいる動物にうつってしまいますから、同行避難中は特に注意が必要です。予防注射もあります。

パルボウイルス感染症
この病気ははいたり下痢をしたりする死亡率の高い感染症です。
その中には病原体のパルボウイルスが大量にあります。
排泄物中のウイルスは消毒薬に非常に強く、また何カ月も感染力がおとろえませんから、いったん流行が収まったかに見えてもいつ再発するかわかりません。イヌ・ネコとも予防注射があります。

寄生虫
動物にたかっているノミは活発に動き回るので、近くにいる人や動物にもすぐに移ります。ノミやダニによってうつる感染症もありますので、定期的に予防や検査をしましょう。
回虫などのお腹の中にいる寄生虫は糞や地面から感染します。定期的な予防と排泄物の適切な取りあつかいを心掛けましょう。

主な共通感染症(一覧表)
病名 関係する主な動物 動物の主な症状 主な感染経路 人の主な症状
狂犬病 犬、猫、その他 狂そう又は麻痺、昏睡して死亡 かみ傷 発病した場合、神経症状、昏睡死亡
オウム病 小鳥 下痢、元気消失 フン中の病原体の吸入 風邪に似た症状
レプトスピラ症 犬、その他 腎炎 尿に接触 発熱、肝臓や腎臓の障害
パスツレラ症 犬、猫 多くは無症状 かみ傷、引っかき傷 傷口が腫れて痛む
猫ひっかき病 多くは無症状 かみ傷、引っかき傷 リンパ節が腫れる
カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症 犬、猫 多くは無症状 かみ傷、引っかき傷 まれに重症化すると、敗血症、髄膜炎
犬ブルセラ症 精巣炎、死・流産 流産時の汚物・尿等に接触 風邪に似た症状
リステリア症 犬、猫、その他 脳炎、敗血症 フン中の病原体が口に入る( 食品等 ) 脳脊髄炎、敗血症
サルモネラ症 犬、猫、小鳥、その他 多くは無症状 フン中の病原体が口に入る( 食品等 ) 胃腸炎( 食中毒 )
カンピロバクター症 犬、猫、小鳥 多くは無症状 フン中の病原体が口に入る( 食品等 ) 腸炎( 食中毒 )
エルシニア・エンテロコリティカ感染症 犬、猫、その他 多くは無症状 フン中の病原体が口に入る( 食品等 ) 胃腸炎、下痢
仮性結核 犬、猫、その他 多くは無症状 フン中の病原体が口に入る( 食品等 ) 胃腸炎、虫垂炎
皮膚糸状菌症 犬、猫 脱毛、フケ 濃厚な接触 脱毛等の皮膚障害、かゆみを伴う
トキソプラスマ症 猫、その他 猫で肺炎、脳炎 フン中の病原体が口に入る 流産又は胎児に先天性障害
回虫幼虫移行症 犬、猫 食欲不振、下痢、嘔吐 フン中の病原体が口に入る 幼児で肝臓、脳、眼等に障害
かいせん 犬、猫 強いかゆみ、脱毛 濃厚な接触 皮膚の強いかゆみ、脱毛
細菌性赤痢 その他 発熱、下痢、急性大腸炎 フン中の病原体が口に入る 発熱、下痢、急性大腸炎
Q熱 犬、猫、その他 多くは無症状 尿、フン、胎盤等の中の病原体の吸入 インフルエンザの様な症状
エキノコックス症 犬、その他 多くは無症状 フン中の病原体が口に入る 肝腫大、腹痛、肝機能障害
高病原性 鳥インフルエンザ 小鳥、その他 突然の死亡、元気消失、下痢 フン中の病原体の吸入 発熱、咳、肺炎
[出典]東京都福祉保健局ホームページ
犬と猫の主な感染症(一覧表)
病名 動物 主な感染経路 主な症状 予防
イヌジステンパー 飛沫感染 くしゃみ、発熱、咳、けいれん 予防注射
犬凡白血球減少症
(イヌパルボウイルス感染症)
汚染されたフンとの接触 嘔吐、下痢 予防注射
ケンネルコフ(イヌのカゼ) 飛沫感染 せき、鼻水、発熱 予防注射一部 あり
イヌコロナウイルス感染症 汚染された便との接触 嘔吐、下痢 予防注射
犬糸状虫症(フィラリア症) 犬猫 蚊が媒介 元気がない、せき、突然死 予防薬の投与
猫伝染性鼻気管炎(ネコカゼ) 飛沫感染 鼻水、結膜炎 予防注射
猫カリシウイルス感染症
(ネコカゼ)
飛沫感染 口内炎、鼻水 予防注射
猫凡白血球減少症
(ネコパルボウイルス感染症)
汚染されたフンとの接触 嘔吐、下痢 予防注射
猫白血病 病気の猫との接触 食欲不振、貧血、発熱、口内炎 予防注射
猫免疫不全症候群 かみ傷、交尾 よく風邪をひく、貧血、口内炎 接触を避ける
猫伝染性腹膜炎 病気の猫との接触 腹水、発熱 接触を避ける
※飛沫感染:咳などで空気中に飛散した病原体を吸入して感染すること

動物の感染症と予防

動物の感染症と予防避難所ではたくさんの人や動物が集まり、人も動物も生活環境が大きく変化しますので感染症の流行が心配されます。普段は元気に生活しているペットでも、ストレスがかかって免疫力が低下すると、感染症にかかりやすくなってしまいます。
ペットたちもストレスや不安から、人や他のペットをかんだり引っかいたりすることも多くなります。下痢を特徴とする感染症やカゼのような感染症は感染力が強いものも多く、ペットがたくさん集まっている避難所ではすぐに流行してしまいます。とくに、持病を持っているペットはより体調をくずしやすくなります。
また、ノミはすぐに避難所のペット達に広まってしまうでしょう。私たちのペットを感染症から守ってあげるため、できることを考えてみましょう。

予防注射

同じ部屋にいたり接触することで感染する感染症は、感染力が強いので災害時には特に流行が心配されます。感染症の原因となる細菌やウイルスには、消毒してもなかなか死なないものや、自然環境中で何カ月も生き続けるものもあり、一度流行が始まってしまうとなかなか止めることが難しい感染症もあります。
ペットの混合ワクチンにはこのような感染症がいくつも含まれていますから、毎年の予防注射は非常に大切です。

避難所での世話

避難所ではきちんとルールを守ってペットの世話をしましょう。栄養のある食餌を食べさせて、便や尿も適切に片付け、清潔な環境を保つように心がけましょう。散歩や遊んであげることも健康には大切です。もしも、動物の具合が悪いときには、早めに負傷動物救護所へ連れて行って手当てを受けましょう。
病気の予防や駆虫はその病気がはやっていなければ必要がないと思うかも知れません。しかし、これらの予防は「自分がその病気に感染しない」ということが目的ですが、実はそれ以上に「その病気をこれ以上流行させないように食い止める」というもう一つの大きな目的があるのです。このことが災害時に多くの人と動物が集まる場所で感染症が急激に広がる危険を防いでいるのです。病気の予防は自分のペットだけのことでなく、他のイヌやネコへの思いやりも込めておこなう行為なのです。

おわりに

大切な家族平成23年3月11日、東日本大震災が発生しました。この震災では、人々だけでなくペットとして飼われていた多くの動物達も被害を受けました。亡くなったイヌやネコもたくさんいます。
津波に流されて飼い主と離ればなれになったり、保護されて長い間避難所で過ごした動物達もたくさんいました。仮設住宅ではペットは飼えませんので、遠くの家庭に引き取られたイヌやネコもたくさんいます。
私たちの暮らしている杉並区でも震災や火災、洪水などの災害が発生する可能性は大いにあります。家族の一員であるペットのために、もしもの時に備えるのは飼い主の責任です。

あとがき

平成26年は日本各地で水害が発生し、震度4を超える地震もありました。杉並区でも集中豪雨による被害がありました。
災害は、わたしたちの身近に起こっているのです。ペットが大切な家族としていつも一緒にいられるように、常日頃から予防注射やノミの予防、しつけや体調管理をしてあげましょう。
そのようなケアがペットの健康を守り、いざという時にもきっと役に立ちます。

編集
東京都獣医師会杉並支部
イラスト制作
女子美術大学 学生作品
発行・監修
杉並保健所生活衛生課 (〒167-0051)杉並区荻窪5-20―1 (3391-1991)
平成28年11月発行